「むすびつき(畠中恵)」のあらすじとレビュー
「むすびつき(畠中恵)」とは
「むすびつき」とは、畠中恵による小説である。「しゃばけ」からはじまる、病弱な若だんなと妖たちが織り成すファンタジー時代小説・通称しゃばけシリーズの第17弾だ。
短編集の形で全5話が収録されており、5つの話のテーマは「生まれ変わり」で共通している。
それぞれの話はほとんど独立しているが、実は強く結びついている点も、非常に面白い。
文章はそれまでのシリーズと同様に非常に読みやすく、読書慣れしていない人や子供、疲れている人でも読み進めやすい作品だ。
ほっこりさせられる話が多いが、不意に涙腺を刺激するストーリーが飛び出すから侮れない。
「むすびつき」のあらすじ
「むすびつき」は5本の短編作品で織り成されている。一話目は「昔会った人」。
広徳寺の寛朝は、ある日若だんなを寺に呼び寄せると、ひとつの美しい、小さな玉を若だんなに見せた。寛朝は、付喪神になりかけているその玉が「若、若」と言うため、若だんなを呼び出したのだが…。
この物語には、若だんなと縁深い貧乏神の金次が深く関わってくる。
二話目は「ひと月半」。若だんなが湯治に出ているひと月半の間に、妖たちが集う長崎屋の離れで起こったある騒動が描かれる。
三話目は書籍タイトルにもなっている「むすびつき」。
メインとなるのは鈴の付喪神・鈴彦姫だ。
一話目の「昔会った人」で金次の話を羨ましく思った鈴彦姫が、「自分にも若だんなとの特別な結びつきがあるはずだ」と言い出し…。
四話目は「くわれる」。
ある日、若だんなとその許嫁の目の前に、「若だんなにずっと会いたかった」という美女が登場。
その美女は、若だんなと三百年前に会ったと言い出すのだった。
五話目は「こわいものなし」。
ひょんなことから妖の存在、そして輪廻転生の実在を知った夕助という男が、「死んでも生まれ変われるのなら、安心して今生で無茶をできる。
身を投げ出して英雄にもなれる」と奮起するストーリー。
そして五話目が終わると、温かいのに胸を締め付けられるような短い後日譚が描かれている。
「むすびつき」のレビュー
単行本にして17作目ともなるご長寿シリーズだが、その面白さは衰えるところを知らない。しっかりとした世界観、登場人物たちの内面の説得力、そしてストーリー自体の面白さ。
どれをとっても素晴らしく、思わずため息が漏れてしまった。
特筆すべきはこの読みやすさだ。
難しい言葉はほとんど出てこず、現代では馴染みがないものが登場すればさりげなく補足される。
話があっちにいったりこっちにいったりすることもなく、場面の切り替えは非常にしっかりしている。
おかげでストレスなく読み進めることができ、しかも面白くて読む手が止まらなくなるものだから、私は社会人ながら、3日で読破してしまった。
全体的に柔らかい雰囲気のストーリーだが、ふいに胸を打たれ、涙ぐんでしまったことも一度や二度ではない。
17作品読み続けて良かった、と思えるような作品だった。
「むすびつき」を読んでしゃばけシリーズに思うこと
今回「むすびつき」を読んで、ついついしゃばけシリーズの凄さについて考えてしまった。しゃばけシリーズは長く続いている作品である。
長く続けば続くほど、登場人物は増え、人物相関図は複雑になっていくものだ。
しかし、この作品はどこから読んでも、この人はどういう人物で、主人公とどういう関係なのか、というのがある程度察しがつくように描かれている。
しかも、ずっとシリーズを読み続けている人にとっても、ノイズに感じられない程度の自然さだ。
シリーズ愛読者であっても、「この人はどういう人だっけ?」ということはまあ、出てくるだろう。
しかし、この作品ではそういった経験をほとんどしなくて済むのだ。
また、しゃばけシリーズの特徴としては、心温まるストーリーが挙げられるだろう。
しかし、心温まるストーリー、というものを描き続けることの難しさについて、ついつい考えてしまうのだ。
センセーショナルなストーリーを生み出す方が、よっぽど簡単なのではないかと思う。
エンタメ的な緩急がありながらも、この作品よ読んで心が傷つけられることは、まずない。
改めて、凄い作品だと思い知らされた。