アニメ論評

必殺シリーズは「中村主水」のみに非ず

必殺といえば「中村主水」という誤解

必殺シリーズといえば、確かに藤田まこと演じる「中村主水」が顔だ。
しかし、主水の出ている作品だけで必殺シリーズが構成されているわけではない。


たとえば、そもそもの第1作「必殺仕掛人」には中村主水は登場していない。
緒形拳扮する藤枝梅安と、林与一演ずる西村左内が主人公のドラマだ。
こうした「中村主水の出ていないシリーズ」のことを、非主水シリーズと呼ぶ。


後期必殺に至ってからは、「仕事人」人気が爆発し、非主水シリーズは主水シリーズの箸休め的存在に陥ってしまったが、いわゆる前期必殺の非主水シリーズは箸休めではない。
傑作と名作が連発されているのだ。

「助け人走る」の魅力

必殺シリーズ第3弾「助け人走る」はいわゆる非主水シリーズの原点のような存在だ(仕掛人は元々必殺シリーズのA面的存在だったため非主水の原点とは言い難い)。
田村高廣演じる浪人・中山文十郎と、中谷一郎演じる煙草の愛好家・坊主頭の辻平内が本作の主人公にあたる。
もちろん中村主水は出演していない(お正月のスペシャルゲストとして、第12話「同心大疑惑」には主水はゲスト出演しているが)。


前作「必殺仕置人」放送時に発生した、いわゆる「仕置人殺人事件」を受けて、3作目の必殺は、明るい文さん・愉快な平さんがバディを組んで「人助け」をするという設定が盛り込まれている。
表向きは明朗快活な時代劇といった趣きなのだ。
しかし、根本の部分ではやはり必殺である。「人助け」の延長として「殺し」も毎回しっかりと行われている。


途中から仮面ライダーV3こと宮内洋も「助け人」として参加し、視聴率も高まり、放送期間が延長された。
全36回。



非主水シリーズの最高傑作と名高い「必殺必中仕事屋稼業」

必殺シリーズ第5作「必殺必中仕事屋稼業」は、ギャンブルの要素を殺しに盛り込んだ野心作だ。
主人公は剃刀を武器とする知らぬ顔の半兵衛(緒形拳)。
半兵衛の相方に、自分は博奕の天才だと言ってはばからない侍くずれの政吉(林隆三)。
そこに偵察係の利助(岡本信人)、元締のせい(草笛光子)が今回のキャラクター布陣である。


裏稼業のプロであるせいと利助に対し、実働部隊の半兵衛と政吉はアマチュア。
それゆえに一か八かの戦闘が多く、毎回スリリングな殺しのシーンが展開された。
そうした展開に加え、第1話で半兵衛と政吉が仕事屋に仲間入りする際、せいと政吉が生き別れになった実の親子であったことが判明する。


政吉はその真実を最期まで知らず、せいと半兵衛がそれに気付くという構図だ。
最終回、政吉は奉行所に捕らわれ、命を落とす。
プロであったはずのせいはアマチュア同然となり、政吉の後を追って自害しようとする。


それを止めるのが成長し、プロの殺し屋となった半兵衛だ。
「おかみさん、俺たち生き残った者は無様に生き続けるしかないんですよ」半兵衛は妻を残し、独り江戸を捨て、旅に出る。
ラストは自らの人相書きを破り捨てるというもの。
名作である。

菅井きん説得騒動の際に制作された「必殺からくり人 血風編」

必殺の顔といえば中村主水だが、その主水をイビる姑役の菅井きんが、必殺シリーズを降板すると言い出した。
それを思いとどまらせるため、説得工作をしていたのだが、その間の時間を使って急遽企画され、制作されたのがシリーズ第9弾「必殺からくり人 血風編」だ。
幕末の品川宿が舞台で、主人公は薩摩の密偵・土左ヱ門(山崎努)。
その密偵としての身分を隠すため、白濱屋おりく(草笛光子)率いる殺し屋集団「からくり人」のメンバーになる。
土左ヱ門の殺しは強烈だ。


匕首で相手の首を掻き切ったり、ウィンチェスターライフルで殺しの相手に何発も銃弾を撃ち込んだりする。
死んだ後もまだ何発も撃ち込むのだ。
それが土左ヱ門の隠した怒りのようにも思えてくる。


最終回、土左ヱ門は薩摩の密偵としての自分を捨てる。
かつての仲間をからくり人として殺しにかかったのだ。
しかし官軍が攻めて来て、からくり人も解散。
土左ヱ門はからくり人の仲間に「ついてくるな」と言い放ち、独り地獄の旅に出る。
全11回。
大傑作である。



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