アニメ論評

横溝正史の「八つ墓村」あらすじとレビュー

「八つ墓村」とは

「八つ墓村」とは、横溝正史による長編探偵小説だ。
日本三大名探偵と称される人物のひとり、金田一耕助が登場する小説シリーズのひとつである。発行されたのは1971年。
架空の農村「八つ墓村」を舞台に繰り広げられた血の惨劇について、それを体験したある青年が後日、書き記すという形で描かれている。


金田一耕助シリーズとしては4作目にあたるが、1~3作目を読んでいなくても十分に理解でき、また楽しめる内容だ。
あまりの人気ゆえ、2021年時点で映画化3回、テレビドラマ化は7回にわたって行われている、探偵小説の歴史に残る名作である。

「八つ墓村」のあらすじ

この小説は金田一耕助シリーズのひとつだが、主人公は寺田辰弥という青年である。
天涯孤独の青年・辰弥の元に、ある日突然、辰弥の行方を身寄りの者が探しているという情報が届いた。
そして、その情報の出元である弁護士の紹介のもと、辰弥の母方の祖父だという人物と引き合わされたのだが、祖父はその場で血を吐いて死んでしまった。
その後、弁護士や、辰弥の大伯母の依頼でやってきたという森美也子と話を重ね、彼は彼の出身地という八つ墓村に身を寄せることに決めた。


しかし、村人たちは彼を歓迎しなかった。
八つ墓村には事実に基づく伝説がある。ひとつは、戦国時代に、財宝を持った落ち武者8人を村人たちが殺してしまったという事件。


そしてもうひとつは、大正時代、田治見要蔵なる村の権力者が、村人32を虐殺し、山中に姿を消した事件。
そして辰弥こそ、その田治見要蔵の遺児だというのだ…。



「八つ墓村」のレビュー

私は以前から金田一耕助シリーズが気になっていたが、シリーズの最初から読むべきか、それとも気になったものから手に取るべきか決めかねていた。
そんな中、ふと書店で目に留まったのがこの作品である。
最初の方を少しめくっただけで、私は「面白い!」と直感した。


そして、これがシリーズ何作目かなんて気にもせずに読み始めたのである。読んでいくと、金田一耕助の出番の少なさに驚いた。
私はてっきり、探偵小説のセオリーとして、語り部はほとんど常に探偵役のそばにあり、探偵役の推理の道筋をなぞっていくものだと思っていたが、この作品の主人公・辰弥はほとんど探偵役のそばにいる機会に恵まれない。


したがって、語り部は語り部で、探偵役は探偵役で、それぞれ全く別の場所で推理を展開していくのである。
この書き方が真新しく感じられ、非常に面白かった。

50年も前の作品とは思えぬ読みやすさ

八つ墓村は1971年に発行された作品である。
だからまず警戒したのは、文章が読みにくいのではないか?という点だ。
いくら同じ日本国内の作品といえど、発行から何十年と経っていると、言葉の表現の仕方や、ポピュラーな文章の書き方なんかも変わってくる。


しかし実際に読んでみて、この作品の読みやすさに非常に驚いた。
確かに、所々に、現代ではあまり使われない文章表現や、ぱっとは意味を理解できないような言い回しもある。
しかし、それを加味してもとても読みやすいのである。


分からない単語に都度都度つまずきながら読み進める羽目になるのでは、と思っていたが、そこまで頻繁でもなく、現代人でもスルスルと読み進めていくことができる。
何より、面白すぎて、言葉の意味を調べる手間などがまるで気にならないのだ。
なるほど、長く多くの人に愛されている作品だけある。