台湾有事で鍵を握る日米の対潜水艦戦(ASW)と機雷戦戦略
中国軍の最大の弱点:対潜水艦戦(ASW)能力の構造的な脆弱性
中国海軍(PLAN)が持つ最も深刻な弱点の一つは、対潜水艦戦(ASW)能力の脆弱性にあります。これは、西側諸国が台湾有事で勝利を収めるための最大の鍵となり得ます。
1. ASW能力における決定的な遅れ
中国は水上艦艇を急増させているものの、対潜水艦作戦に必要な質的・量的な要素が日米に大きく劣っています。
- 訓練と経験の不足: ASWは高度なスキルを要求しますが、中国海軍は公海での実戦的なASW訓練の経験が浅いとされています。
- 水中監視能力の限界: 潜水艦の探知・追跡に必要な高性能なソナー技術や、統合された水中監視ネットワークの構築が、日米のレベルに達していません。
- 対潜哨戒航空戦力の不足: ASW作戦の要となる**対潜哨戒機(P-8やP-3Cのような固定翼機)の保有数、性能、パイロットの練度が、日米に大きく劣ります。
2. 日米潜水艦戦力による「拒否的抑止」の役割
中国海軍のASWの脆弱性は、日米の潜水艦戦力が中国の補給線破壊において決定的な役割を果たせることを意味します。
台湾有事において、日米の潜水艦は高いステルス性をもって、中国の水上艦艇への攻撃、そして最も重要な海上補給線の遮断を実行できます。潜水艦は「敵戦力の無力化」を達成するための理想的な兵器であり、中国がその脅威を排除できない限り、海上での勝利は確定しません。
💣 機雷戦力の戦略的意義:非対称な優位性の活用
機雷戦の巧妙な運用は、中国の弱点と日本の得意分野を組み合わせた、「味方の犠牲を最小に留め、敵の戦力を無力化する」ための非常に有効な戦略です。機雷戦は潜水艦に並ぶ重要兵器として機能します。
1. 機雷戦の優位性とコスト効率の高さ
- 潜水艦以上のステルス性: 機雷は探知が難しく、一度敷設されれば長期間にわたり敵の行動を制限します。
- コスト対効果: 機雷は高価なミサイルや艦艇に比べ安価ですが、その除去には多大な時間、人員、コスト(財政的疲弊)を強いることができます。
- 「航路拒否」の戦果: 機雷は艦艇を破壊するだけでなく、単に港湾や航路を「使用不能」にすること自体が、補給線を破壊し、戦力を無力化する絶対的な戦果となります。
2. 海上自衛隊「もがみ型フリゲート」の役割
海上自衛隊がもがみ型フリゲート(FFM)に機雷敷設・除去能力を統合したことは、この戦略を裏打ちします。FFMは高速かつ長航続距離を持ち、ステルス性を生かして秘密裏に機雷作戦を実行する上で大きな強みとなります。
勝利への最短手段:ミサイル消耗戦を避け、非対称戦略で継戦能力を奪う
敵の弱点を衝き、補給線を破壊することが、勝利への最短手段です。「正面切っての殴り合いを避ける」戦略は、中国の継戦能力を決定的に削ぐための最も効果的で非対称な手段となります。
1. 中国のミサイル消耗戦の限界
ウクライナ戦争の例が示すように、中国が台湾や日本に対して短期間でミサイルを大量消費すれば、その生産と補充の困難さから、長期的な戦線維持が不可能になります。
日本側が「目標を無力化できないミサイルを浪費させる」戦略をとることは、中国の「長期の航空戦力の戦線維持は不可能」という弱点を逆手にとる手法です。
2. 非対称戦略の二つの柱
勝利への最短手段は、以下の二つに集約されます。
- 水中の支配(ASWと潜水艦): 中国の補給船や水上艦艇が活動できない環境を作り出すこと。
- 航路の拒否(機雷戦): 中国が使用したい港湾や海峡を機雷で封鎖し、継戦能力を物理的に奪うこと。
これらの手段は、航空戦力や陸上戦力が本格的に投入される前に、中国の戦争継続の意思と能力を決定的に削ぎます。
