web小説図書館
朝寝坊
松本の朝
松本の朝は寒い。昼間どんなにお日様が天高く昇ったところで、陰った瞬間に極寒地獄へと化すのである。
そして、そのお日様が昇る直前、すなわち朝というものが一日の中で最も寒いということに説明はいらぬであろう。
しかし、今日、いや今はそこまで寒くはない。
もちろん暖房をつけていることは原因の一つであるが、設定温度はいつも通りのはずなのにやや汗ばむほどだ。
まぁたまには松本の鬼も疲れた、と言って休憩しているのかもしれんな。
先日豆まきで鬼を退治したばかりであるし。
優雅な朝
いやぁ、今日はいい日だ。いつもより暖かいのはもとより、心なしかいつもよりこの部屋も明るく感じる。
そしていつもよりこの部屋が静かだ。
何より、部活の疲労とかいう大敵も今日は息をひそめているようだ。
う~ん、素晴らしい。
こんな日はもう少し寝ていたいものだ。
しかし、私にも学生という立派な社会的身分がある。
いつまでもこの布団という素晴らしい文明の利器の恩恵を享受し続けるわけにはいかない。
今日は休日ではないのだから。
ここはローマではないのだから。
焦る朝
そうして、いつもよりは軽いが、まぁそれなりに重い身体を起こして、起床という作業に入る。空気を含んだ、布や羽の塊をたたんだら、目覚まし時計を見る。
もう一度見る。
目を閉じて、深呼吸して、心を落ち着かせて、再度見る。
無論、何度凝視したところで、正確に時を刻むことを生業とするものが指し示す数字は変わらない。
そこにあるのは非情な現実だけである。
なるほど、今日はいい日ではないらしい。
いつもより、暖かくて、明るくて、静かで、疲労が少ない理由が一気に明らかになった。
落ち着く朝
そうだな、現在の時刻は、この部屋が静かになって、すなわちアラームが鳴り終わって、テレビドラマ三話分経ったぐらいの時間。とどのつまり、今日が11月11日だったら、アホな若人達が“ポッキー!”と叫ぶくらいの時間。
しかし、ここで焦る、または落ち込むとやらを行うものは真の阿呆というものだ。
一度通り過ぎた時間はもう二度と私の下に帰ってこない以上、今日のこれからの時間をどう使うかを考えたほうが、はるかに建設的である。
時間はいつだって一方通行であるのだから。
本日の一限はもう終了しているが、出席点が大きく、私のテストからは5点減点されることが決定した。
たかが5点くらいくれてやる、と意気込むのは何回目だろうか。
とりあえず、今日は5点分の後悔とともに、昼のウエイトトレーニングから行うことにして、顔を洗った。
足は洗えなかった。