web小説図書館

現代人の朝食

戦闘準備をする現代人

ラジオからは、陽気な音楽が絶えず流れている。
埃が詰まったスピーカーから流される音は、心なしか濁ったような印象を与えられる。

音楽の合間には声だけ美人の女性の声が聞こえるが、彼女の正体を知っている。

四角い画面で情報収集できる現代社会では、ラジオパーソナリティの顔を調べるなど朝飯前のことである。
だから、特別な感情を抱いたりしない。

朝食は、ここ数年で様変わりしてしまった。

あれほどカップラーメンを好き好んでいたはずだが、いつの間にか油ものを体が拒むようになったからだ。
今では流動食と表現しても大げさではないような、歯ごたえのないものばかりが朝の食卓に並んでいる。

ヨーグルトにオリーブオイルがかかっている朝食をみた妻は、人間が食べるものではないと怪訝そうな表情で言う。
銀色だったスプーンは年季が入り、ちょうど唇が当たる部分が錆びている。
そんなものを気にする年齢でもなくなっているし、これから待ち受けている出来事に比べれば安全なものだ。

「いってらっしゃい」。

心にもないことを言われた。

さほど美人でもないラジオパーソナリティは、いつも同じ声色でリスナーを送り出す。

鼻でため息をつきながら、重苦しい外の世界へ繰り出した。




関連記事