思い出は夢幻の如く、それでも絶対に忘れない
あれは、夢か、幻か。それとも現実か。
どちらにしても、幼かった私にとって、それはかけがえのない思い出だった。
皆さん、こんにちは。
長くなるかもしれませんが、どうぞ、私の昔語りにお付き合いくださいませ。
私はそのとき、小学校1年生でした。
良く言えば物静か、悪く言えば引っ込み思案な性格の私は、いつもひとりでした。
友達もほとんどおらず、みんなが大勢集まって遊んでいる中、私は隅の砂場でぽつんと泥団子を作っているような子でした。
いじめられたりはなかったので、だから自分の状況に不満は無かったのですが、ただちょっとだけ寂しくて。
でも話しかける勇気も無くて。
私はずっとこのままひとりぼっちなのかな、と勝手に考えていました。
そんな私の転機は、夏休みでした。
私の家の近くには竹やぶがあったのですが、暇を持て余した私は、その奥に入ってみたのです。
表からは真っ暗で様子が窺えない竹やぶの中心辺り。
そこは多くの子供たちにとって恐怖の対象で、実際に入るような変わった子は後にも先にも私しかいなかったのではないでしょうか。
他の同級生に話しかける程度の勇気は無い癖に、我ながら本当に変な子供だと思います。
さて、自ら入り込んだ竹やぶの中には、不思議な世界がありました。
存在するはずのない一軒家が建ち、庭もあって動物もいて。
まるで、御伽噺に出て来るどこかの森みたいだ、というのが私の感想で。
怖くはなかったです。
むしろワクワクして、私は迷わず家の扉を叩きました。
家の中にいたのは、小学校6年生くらいでしょうか、年上の男の子でした。
彼は、期間限定でここに住んでいるのだと自己紹介し、普段人の来ない場所に来た客、つまり私を歓迎してくれました。
当時、幼さ故に私は、竹やぶの中にこんな広い空間が存在し得ないことに、気付きませんでした。
だから私は彼の言葉を信じ、一緒に話したり遊んだり、お菓子を食べたりしました。
次の日も次の日も、彼はそこにいました。
私は毎日行きました。
楽しくて楽しくて、彼は確かに、私の友達でした。
私の、初めての友達でした。
私は、まだまだ今後も彼と一緒にいられると、勝手に思い込んでいました。
しかし夏休みの最終日、彼は言いました。
僕はもう行かなくてはならない、と。
期間限定と言っていたのを忘れていた私が悪いのです。
それでも泣いて嫌がる私に、彼は頭を撫でて、続けました。
「君はもう大丈夫。僕と友達になれたでしょう?」
言われてみれば私は、ごく普通に自然に、彼と友達になっていました。
そうやって他の子とも仲良くなれば良い。何も気負わなくて良い。それが、彼の最後の言葉でした。
翌日私が竹やぶに入ると、もう家も庭もありませんでした。動物もおらず、そこはただ竹が沢山生えた、何も無い薄暗い空間でした。
今、私には、それなりの人数の友達がいます。
彼と友達となったときを思い出せば、友達作りは難しくなく、私がひとりぼっちだったのは最早過去の話です。
でもそれは彼がいたからこそ。
今の私がいるのは彼のおかげです。
夢かもしれません、幻かもしれません。
ですが私は、あの出来事を現実だと信じています。
今日も彼は、どこかの森か林の中で暮らしていると。
あなたには、あなたを変えた出来事がありますか。
もしあるのなら、一生大切にしてください。
きっとそれは、あなたの糧になり、成長させてくれるから。
これで私の話は終わりです。
最後までご清聴頂き、ありがとうございました。