夏の終わり
川遊び
きょうは、夏休み最後の日曜日、小学校一年生のレイちゃんは、お父さんとお母さんといっしょに、すこしとおくの川まで水あそびに来ました。「あなたがおなかの中にいる時は、今までで一ばんあついなつだったの。
お母さんは、お父さんに『涼しい所へ連れて行って』とわがままを言ったの 。
そした らお父さんは、この川へつれてきてくれたの」
ここへ来るたびにお母さんはそんな話をしてくれます。
「はだしで川の水に足をつけた時、いたいくらいにつめたくて気持ちがよかったのよ。そのあとで生まれたのがあなたなの。だからあなたは『川の子ども』なのよ」
お母さんはいつもそう言って笑います。
そのせいかどうかは分からないけれど、レイちゃんは川であそぶのが大好きです。
もちろん、プールや海も好きです。
でも、はだしの足をはじめて川の水につける時のあのドキドキするような気持ちや、お母さんも言っていた、「いたいくらいにつめたい水の気持ちよさ」が大すきです。
ここは山に近い、あまり大きくない川です。
でも少し上に行くとたきもあります。
男の子たちはそこからとびこんであそんでいます。
まだ小さいレイちゃんは、あさいところでうきわにつかまって流されたり、きれいな水の中に見える川のそこの石が光るのを楽しんだり、足にぶつかりながらおよいでいく魚にびっくりしたりしながら、楽しんでいます。
宝物を見つける
レイちゃんがうきわにつかまってぷかぷかと流されながら、ゆらゆら揺れる川のそこを見ていると、きらりと光る物を見つけました。「なんだろう」
手をのばしてもとどきません。
レイちゃんは、思いっきり手をのばしました。
顔が、つめたい水につかりました。
そうやってつかんだのは、うすい青色のビー玉でした。
ビー玉はすきとおっていてキラキラ光っていました。
お日様にすかして見ると、青い色がもっと光って見えました。
「こんなの見つけた」
レイちゃんはうれしそうにお父さんとお母さんにビー玉を見せました
夏の思い出がよみがえる
「きれいなビー玉ね」お母さんが言いました。
「川の水がかたまってできたみたいだね」
お父さんも言いました。
レイちゃんは石の上にすわってビー玉をお日様にすかしてじっとのぞきこみました。
かた目だけつぶるのはまだむずかしかったけど、ほっぺたにギュッと力を入れて、かたほうの目をつぶりビー玉をのぞきこみました。
じっと見ているとビー玉の中に、やわらかいたくさんの光がならんでいるのが見え始めました。
それは、おまつりの日に見た夜店のあかりでした。
「みんなでいったおまつりだ」
レイちゃんはそう言って、もっとほっぺたに力を入れてビー玉をのぞきこみました。
青いビー玉の中には、いろいろなものがうかんではきえていきました。
なつまつりですくえなかった、ひらひらのしっぽの金魚がゆっくりとおよいでいきます。
そのあとには、おうちの前でしたせんこう花火が見えます。
ほそい葉っぱのような光がパッとちりました。
真っ赤な丸い玉がたくさん見えました。
まいあさお母さんにたのまれて、おにわにとりに行ったミニトマトでした。
ミニトマトはお日様の光とあさのつゆで、まっかに、そしてキラキラと光っていました。
すいぞくかんで見たイソギンチャクと、そのそばでおよぐ青い熱帯魚のような魚も見えました。
そのあとをさっき石の下でみつけたサワガニが、はさみをふりながら歩いています。
おたんじょう日に食べたケーキのいちご、水やりを忘れてかれかけたけど、元気をとりもどしてたくさん咲いた朝顔の、すきとおるようなむらさき色の花・・・。
ビー玉の中にはレイちゃんの今年のなつ休みがいっぱいつまっていました。
夏休みが終わる
「レイちゃん、どうしたの」お母さんの声にはっとしたレイちゃんは、ビー玉から目をはなしました。
レイちゃんはお母さんには答えず、いそいでもう一度ビー玉をのぞきこみました。
でももう何も見えません。
ビー玉は青く光っているだけでした。
「さあ、もうちょっとあそんだらおしまいにしようか。帰りのバスの時間もあるしね」
とお父さんが言いました。
「もう一回、川に入ってくる」
レイちゃんはビー玉をにぎりしめたまま川に入っていきました。
たくさんあそんで、お魚や虫やサワガニたちとお友だちになりたかったのです。
この川とも友だちになりたいとレイちゃんは思いました。
そして青いビー玉の中にもっともっと、今年のなつをつめこんでおきたいと思いました。
なつももうすぐおしまいです。
どこかでツクツクボウシがなきはじめていました。