白い闇
白い。私がまず抱いた感情はそれだった。
目の前にあるのは白い空間だった。
どこまでも白い大きな巨大な部屋に私はいるのだろうと思う。
なぜ思うのか、ここには壁もなく、天井もなかったから、あるのは床のみで、横も上も下もただただ白いという事だけしか分からなかった。
ただ、白い。
これは夢だな、と思った。
残念乍ら私はもう30手前の女で、どこかの組織に囚われただの、宇宙人にさらわれただのを信じるには年を取りすぎていた。
そしてその証拠に、この白い空間から音が聞こえてきた。
「人間はみな平等です」
ああ、よく聞かされたなぁ。
小さい頃テレビの前でこのフレーズを何回も何回も聞いた。
純真な私はその言葉をそのまま受け取り、人間は全て平等で皆等しく夢が叶えられる、叶えることができると思っていた。
そんな訳ないのに。
大人になってから私は人間は全て平等ではないということを嫌と言うほど知らしめられた。
高校大学はまだよかった、問題は社会に出てからだった。
まず就職口が見つからなかった。
小さい頃私は大学を出たら自然と就職をして10年位勤め結婚するものだと思っていた。
自分が望むにしろ望まないにしろ就職するものだと思っていた。
だが現実は違った。
何回も何回も断られた。
「正直であれ」とよく両親に言われた。
私は嘘偽ることなくまっすぐ人と向き合ってきた。
嘘をつくことが大嫌いだった。
だから嘘をつけなかった。
面接では思ったことをありのまま伝え、自爆した。
案の定受かっても、店の悪いところを見つければすぐに報告した。
何も考えずにそれがどういう結果を生むか知らずに私は行動した。
そして何も残らなかった。
お金もプライドも生きる自信ですらも失った。
この部屋には何もない。
私を現している。
清廉潔白、まさに白い。
ただ真っ黒ではなかった。
両親がいたからだ、仕事を失った私を助けてくれた。
両親はまだ働いていたので、職が無くても私は困らなかった。
ただ毎日のように責められた。
「どうして同じことを注意されてしまうのか」
「なぜ努力しないのか」
「あの人の息子は立派な企業に勤めているのにお前は何故就職できないのか」
「このままでいくとホームレスになるでしょうね」
と言われた。
そしてそのことを嘆くと「世界にはもっと貧しく苦しい思いをしている人がいるのにこの程度で絶望するとは情けない」「前向きに仕事を探せ」このように言われた。
ただ無職だというだけなのだ。
この部屋のように色も何もないだけなのだ。
ただそれだけのことなのだ。
なのに、どうしてこんなにも苦しいのでしょうか?
私は嗚咽を流す。
涙がとめどなくこぼれる。
幸せです、幸せです。
私は満たされているはずなのです。
ご飯も食べれる。
五体満足です。
生活していけてます。
では何故こんなに苦しいのでしょうか?
誰もいないから?
誰も自分を必要としていないから?
私は何も持っていないから?
この部屋のように私には何もありません。
何もないのです。
私はこうして泣きつづけました。
絶望は黒色だけでないという事を私は大人になって初めて知りました。
あなたならどうこの闇と向き合いますか?
弱い私にどうか教えてください。
「白い闇」
end
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