向田邦子

向田邦子がこだわり続けたのは、家族

昭和を代表する脚本家であり、作家としては直木賞を受賞したことでも知られる向田邦子。
彼女は飛行機事故で人生を閉じるまで、生涯独身を貫きました。
そんな彼女が描き続けたのは、家族の風景。
自分が家族を持たなかったからこそ、家族に対して客観的な視点を持ち続けることが出来た彼女は、家族をテーマにした素晴らしい脚本が多数あります。
今回はその中から「これぞ名作」の三つをご紹介いたします。

疑似家族に幸せを見た「冬の運動会」

この物語の主人公は、ハイソな家庭に生まれた大学生。
けれど、その「ハイソな家庭」の上っ面に嫌気が差しています。
そんな彼が出会ったのは、小さな靴の修理屋を営む老夫婦。
そこでアルバイトするようになった彼は、その夫婦に自分の家にはない家族の温かさを感じます。
本当にそこの家族になり、靴屋を継いでいいとまで思うようになりますが、靴屋の夫婦はある日突然姿を消します。
「疑似家族」であるからこそ、温かさに満ちていたのです。本当の家族とは、温かさだけではない苛烈なものがある。
そんなことを感じさせる名作です。

父と息子の掛け合いが面白い「だいこんの花」

この物語は、妻を早くに失った父と、出版社に勤める息子が織りなす人情喜劇です。
父を演じたのは森重久弥。飄々とした人柄がなんとも魅力的です。
口うるさい父親に嫌気が差しながらも、優しくあったかい心を持つ息子は父とモメながらも楽しく暮らしているのですが…。
そんな息子が恋をしたのは、銀座のホステス。
元軍人の父は「そんな女はダメだ!」と反対し、今度ばかりは息子も譲らず。
やがて、ホステスの女性の純情に打たれた父は、この結婚を許し家族となっていく過程が、温かく描かれた作品です。

阿修羅のごとく

まったく性格の違う四姉妹。
嫁いでいる者、夫に先立たれた者、男っ気のない独身者、彼氏と同棲中の者と様々なのですが、ある日とんでもない事態が発覚するのです。
それは、70代になる父の浮気。
しかも相手の女性には息子までいる。
この浮気を巡って、それぞれの考え方や態度の違いで、娘達は激しくぶつかり始めます。
そして、おだやかに家庭を守っていた母の、本当の「阿修羅」を見るのです。
家族の意味を深く考えさせられる、向田邦子の最高傑作です。