東川篤哉は有栖川有栖の影響を受けていた!?
東川篤哉は、脱力系ユーモア本格ミステリの作家として知られています。「脱力系」というのは、本格ミステリの「回路を経由していながら、そこから離脱した小説」を目指していることを意味しています。
東川篤哉の記念すべき第一作『密室の鍵貸します』(光文社文庫)の解説を担当したのは有栖川有栖氏ですが、有栖川有栖氏は、東川篤哉の作品の傾向が自分にピタリと合っていることを語っています。
東川篤哉は、有栖川有栖氏の推薦を受けて、本格的に作家デビューを果たしています。
» ユーモアのある小説の書き方について
烏賊川市シリーズの特徴は軽妙さ
東川篤哉が作家としての歩みを始めたのが「烏賊川市シリーズ」と呼ばれる作品です。架空の都市・烏賊川市(いかがわし)を舞台に、探偵の鵜飼とその親戚で探偵の助手を務める戸村、烏賊川市の警察署に勤務する砂川警部と志木刑事。
この四人が主な登場人物です。
物語は謎解きが主流で、事件に絡む人間の心情に深入りしません。
そこが東川篤哉の特徴です。
烏賊川市シリーズは、語り口が軽妙で、随所にユーモアが散りばめられています。
最大の笑いは舞台の名前でしょう。
「いかがわし」という、いかにもいかがわしい地名が、胡散臭さに陥らない笑いを提供しています。
登場人物の心情に深入りしすぎない
烏賊川市シリーズの特徴は、登場人物の内面に深入りしすぎずに、軽妙な筆運びで事件の外側から謎解きをしていることです。ドロドロした内面に深入りするのが好みでないことは、第一作である『密室の鍵貸します』の一節に、戸村が映画に対して抱く感想という形で書かれています。
そのため、けっこうヘビーな殺人事件が起こっているのに、重苦しい感じを抱かせません。
気が滅入っているときに、気軽に読めるミステリが東川篤哉の烏賊川市シリーズです。
密室という謎をいかに解いていくかということに、集中して読めます。
謎ディはドラマに適していた文体
東川篤哉を有名にしたのが『謎解きはディナーのあとで』です。「謎ディ」の愛称で親しまれている作品群です。
2010年に発表された当初は7000部でしたが、口コミでじわじわと部数を伸ばし、シリーズ累計320万部を突破しました。
2011年にはフジテレビ系がドラマ化しており、主演を櫻井翔が務めています。
2012年には舞台で、2013年には映画でも楽しまれるようになりました。
そのような楽しまれ方をする要素が、「謎ディ」にはあります。
キャラクターが魅力的で、文体がメディア向きに出来ているからです。