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一人遊園地

恵麻の堪忍袋

「君は一人では何にもできないんだね」
 恵麻にそう言われた和馬は何も言い返せずにただ不貞腐れた表情を浮かべた。
それでも彼女に借りた講義のノートを突き返すこともせずバッグに収めた。

「……できるよ」

「ん? なに? 一人で授業に出れなくて、外食もできなくて、公共料金の支払いもできない君になにができるの?」

 恵麻の言う通り、大学に入学して一人暮らしを始めて以来和馬は彼女に頼りっぱなしだった。
堪忍袋の緒が切れるまで二年、幼馴染の時代から数えれば十五年、辛辣な言葉の一つ出てもおかしくなかった。



恵麻の提案

「なんでも。なんか言ってみてよ」

 和馬の言葉に恵麻は逡巡する。なにか意地悪をしてやろうと無理難題を考えていた。

「じゃあ、一人で遊園地行ってきてよ」

 地元で有名なテーマパークの名前に和馬は飲んでいたペットボトルのお茶を吹き出した。
濡れたアスファルトを見て外で良かったと、無関係なことを考える。

「なんか思ってたのと違うんだけど」

「できないの?」

「できる。今に見ていろ」

「一人で行くんだから見れないでしょ」

 恵麻は皮肉な笑顔を浮かべた。



恵麻の推理

 数日後、教室から出た恵麻を待ち構えていたかのように和馬が走り寄ってきた。
その勢いに恵麻はたじろいだ。

「俺、ちゃんと一人で遊園地行ってきたよ」

「え? 本当に?」

 と、一瞬信じかけてすぐに思い直した。和馬のことは自分が誰よりもわかっている。
一人でラーメン屋にも入れない男がそんなことできるわけがない。

「証拠ある?」

「あるよ。写真を見てよ」

 和馬のその言葉を聞いて恵麻はニヤリと笑った。

「引っかかったわね。一人なのにどうやって写真撮るのよ」



恵麻の敗北

 恵麻の声を無視して和馬はバッグの中から以前恵麻から借りたノートを取り出し、そこに挟まれていた写真を彼女に見せた。

「あー、なるほどね……買ったんだ、これ」

 写っていたのは絶叫マシーンに一人で乗る和馬の姿だった。

「わかったか? 俺だって一人でだって行けるんだよ。でもさ」

 和馬は言いにくそうに口籠った。

「なによ、はっきり言いなさいよ」

「……一人で行くのはつまんないから、今度は一緒に行こう」

「あ、うん」

 ちらりと見た恵麻の顔はひどく赤面していた。

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