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再就職物語

再就職、単身赴任の始まり

 私の名前は秦野知宏35歳。同い年の妻、小学1年の娘、保育園児の息子と4人で暮らしている。
私は大学卒業以来12年間勤めてきた会社を退職し、これまでと職種が全く異なる会計事務所へ転職することにした。


将来税理士として活躍することを目標としたのだ。私はその第一歩として簿記2級を取得した。
 しかし、転職活動では「35歳で会計事務所未経験では採用できない」と言われ、何社も不採用となったが、1社だけ将来の私の成長を期待し、採用を受け取った。
その会社は「税理士藤中俊彦事務所」。

私は所員として採用されたものの、条件が一つあった。

家族と離れ、事務所の近くで単身赴任することであった。
私はこの事務所以外に活躍の場はないと覚悟し、その条件を受け入れそこで働き始めた。



不慣れな仕事の連続

 初出社日、藤中所長を除き4人の所員がいたが、全員私より年下であった。

彼らがいくら年下であっても、私は仕事を教わる立場であることから、彼らに頭を下げながら仕事を始めた。

 いざ、あらゆる業務を一緒に始めてみると、彼らの手際の良さ、頭の回転の速さ、顧客への気遣い、気持ちの余裕が、私とは比べ物にならないくらいに持ち合わせていることに気付いた。

客先での作業、事務所内での作業において、年下である先輩社員から「秦野さん、何やってんの?まだできないの?」と言われる毎日だった。



失敗の連続

 会計事務所へ入所してから約1か月経った頃、藤中所長から「仕事は厳しいかもしれないが、遠くの家族が秦野君の成長を待っていると思って、仕事が終わった後も毎晩、毎週末しっかりと勉強して、みんなに喰らいついて行けよ。」とアドバイスされた。

 しかし、仕事の内容が覚えきれず失敗が続くことと、家族へ会えない寂しさが加わり、仕事への集中力が上がらず、ある日、客先で会計書類を踏んでしまう事件を起こしてしまった。

藤中所長の目の前でやってしまい、顧客の前で「なんてことをするんだ」と叱責を受けた。

私は後悔の気持ちしかなかった。



離職、そして家族との同居再開

 その事件以来、藤中所長や先輩社員は厳しい言葉を私に言わなくなった。
それ以来比較的平穏に仕事をこなす日々が続いた。

 そして、その月末、各所員が藤中所長と面談をすることとなった。
私は最後に面談へ呼ばれた。

すると、藤中所長より「お前、ここでは自信を持って仕事を続けられないだろう。明日からここへ来なくていい。家族とゆっくり今後どうするか考えたほうがいい。」
・・・退職勧告であった。


税理士への目標を絶たれたのだ。


 しかし、私には一つ明るい光が見えた。

「家族に、妻に、そして小さな子供たちにやっと逢える。もう、明日から我慢しなくていいんだ・・・」

 その4か月後、大学卒業以降働いていた業界へ復帰し、再就職することとなった。

~終わり~

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